TAKEUMA’s blog

大人になった未来の我が子に向けて。父と君たちとの『今』を伝えるためのブログ

書評:探検家とペネロペちゃん / 角幡唯介 (幻冬舎)

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探検家 角幡唯介。『空白の五マイル』を読んで以来、結構好きです。探検をただ記述するだけではなく、心情の盛り上がりや内面に迫る文章がすごい。この人自身、登攀技術や海洋技術など特定の分野で超一流なのではなく、総合的に現代の未開の地を探検し、自由と自分を探求している。ようするに哲学する探検家。

 

というとお堅いように思えるが、基本はおちゃらけた文で、その中に深い洞察が含まれているから読んでいて面白く、はっとさせられる。

 

そして今回の本。探検の話ではない、子育ての話である。自身、子育てなんてするのかと思っていたところが、子供ができてみると、これ、勝手に子供をかわいがっている。溺愛している。ペネロペはあの青い熊ではなく、ペネロペ・クルス的に子供がかわいく美しい、と称している。はたから見ると親馬鹿丸出しの本である。

 

しかし、この人のすごいところは、なぜ子供をかわいがるなどという発想がなかった自分がそういう心情にいたり、そういう行動をするのか、という点をことあるごとに考える。たとえを交えながら文章に書き表せるのである。

 

妊娠は前人未到の冒険であると考えたり、子供との関係はDNAに刻まれ絡まりあっているんじゃないかとか、男親は自分が男親になるつもりでなれるのではなく、子供と妻が男親として認めることで初めて男親になれるのであって自身に選択権があるわけではないとか、子供の成長の中にこそ、真の冒険をも見出したり、成長に伴って言語化されることで外の世界を作っていく(それによって恐怖とかも出てくる)とか、結構衝撃的な洞察が連続する。

 

子供を持って変わる感覚、苦労もするが本能的な喜びも大きい。子供の成長の中に見出す生命の根源的な感謝と感動。

私も近いものを感じることがあるので、この本には共感できるところ多々ある。私自身性格的に一人が好きで、子供や結婚も向かないと思っていたが、今や毎日夕飯は共にしてしまう。とはいえ子供が大好きというつもりでもなく、本能的というかそれが一番しっくりくるという感覚が最も近い。

 

なんというか、子育てってつらいけど楽しいんですよね。子供を産む産まないは自由だっていうのはよくわかるけど、子供ができ、子供という未知なるものへの責任が生じ、共に成長していくのは、子供がいなかった場合と比較して自分の心の領域をはるかに押し広げることは間違いない。

 

最近の人って未来を見てばかりで、子供ってめんどくさそうだなと思って結婚も子供も進まない人が多すぎると思う。めんどうだからこそ挑むのだし、その先にこそ見える景色がある。でもそんなことより、子育てって本能的に楽しいんだってことを知ってもらいたい。

 

最近子供も大きくなって割と予定調和に成長しているので、この本に書かれた生まれる前~4歳くらいのままならない頃が懐かしく、いつの間にかその頃を忘れてしまっている自分に驚いた。

 

良い本でした。日常は冒険にあふれている、もっと洞察しよう。